• 伏見いきいき市民活動センター

【For Localプロジェクト】認定NPO法人 量子化学研究協会研究所 所長の中辻博さんにインタビュー

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認定NPO法人量子化学研究協会研究所は、14年前の2006年に設立されました。所長は、理論化学の第一人者である中辻博さん。2004年に“シュレーディンガー方程式”の一般解法を世界で初めて発見され、その功績により2016年、WATOC(Word Association of Theoretical and Computational Chemists)よりシュレーディンガー・メダルを授賞されています。現在、研究所では、研究員のみなさんと化学現象を正確に予測できるような理論展開とそれを実現するための計算プログラムの構築に注力されています。

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Q. “研究所”というと公的な大学や研究所をイメージしますが、特定非営利活動法人(NPO法人)という形態で設立されたのはなぜでしょうか。

当時、京都大学工学研究科・中辻研究室を中心に、分子のあらゆる状態(普通に存在する状態や光を吸収して励起した状態など)を研究することのできる正確なSAC-CI理論とその計算プログラムが開発・公開されました。世界の大学・研究所・企業における化学研究に役立っており、このプログラムをさらに有用なものに改良していくことは将来に亘って大切なことでした。

また、“シュレーディンガー方程式”の一般解法を2004年に発見したことで、世界中の注目を集めました。この発展と展開は理論化学のパラダイムシフトに繋がるものといわれています。

しかし、これらの研究やプログラム開発の担当者が色々な所属に散らばり、連携的に継続・展開するための組織が必要となりました。研究の発展と普及に参画する会員を含めてその力量を高め、より深く広く科学技術や文化の発展に寄与することも重要なことであるとの想いからこの形態での設立となりました。

活動目的は、「量子化学の研究とその普及に関する活動を行いその成果を国際的に公表することにより、科学技術の発展と人類の幸福に寄与すること」です。主に①量子科学研究の遂行、②国際的研究誌での論文発表、③シンポジウムの開催、機関誌「量子の世界」の刊行を行っています。

Q. 主な研究のテーマについて教えてください。

私達の物質世界は、巨視的世界は主に古典力学によって、微視的世界は量子力学によって支配されています。このうち巨視的世界を支配するニュートン方程式は正確に解くことができ、天体の運行予測や人工衛星の打ち上げなどに使われています。


他方、原子・分子からなる微視的な化学や生物の世界はシュレーディンガー方程式によって支配されています。そのため、この方程式を正確に解くことができれば、化学現象を理論により、正確に予測したり、設計したりすることが可能になります。「神様が使っている方程式」とも言えるのかもしれません。

シュレーディンガー(1933年ノーベル化学賞受賞)の1926年の発表以来、多くの理論家が、この研究を試みました。しかし、70年以上たっても正確な解法が分からず、不可能と言われてきました。しかし、2004年シュレーディンガー方程式を正確に解く一般理論を世界で初めて私たちが発見しました。

主な研究テーマは、この正確なシュレーディンガー方程式の一般解法を基礎に、科学者にとって使いやすい「正確な予言的量子化学」を創り、科学・工学・生物の研究に生かされるよう提供することです。ここでいう「予言」とは「当たるも八卦当たらぬも八卦」ということではなく、正確に予測できるようになるということです。

2006年の設立以来、NPO法人量子化学研究協会の研究活動により、その研究は着実に進展

しています。


Q. 他に具体的な研究活動にはどのようなものがありますか?

以下2つの研究活動があります。

ひとつは、私たちの研究室で創った、光と分子が関与する現象を研究するためのSAC‐CI理論の開発があります。この理論は、世界中の大学や企業で使われているGaussianプログラムに搭載されています。

これは、植物による光合成の研究、人の視覚の分子的メカニズムの研究(眼の中で起こっている、青、緑、赤の3原色の視覚)、生物発光の分子的メカニズムの研究(蛍の発光のメカニズム:赤い色の光を放つ蛍を人工的に作ることもできます。)などに生かされています。

もうひとつは、Dipped Adcluster Model(DAM)と呼ぶ表面触媒反応現象を研究するための理論の開発です。これには、銀触媒によるエチレンの部分酸化の研究やハロゲンを吸着する際に、アルカリ金属表面から電子が飛ぶ現象、表面が光る現象の解明の研究などがあります。


その他、一般の方々を対象に、量子化学の講習会も何度か開催しています。

Q. 研究を進めるにあたり、どのようなことを大切にされていますか?

「自由な発想でオリジナリティーの高い理論を創ること、自然を真摯に見つめること」が肝要ですね。

理論の良いところは、実験とは異なり、危険を伴わず、作成できる試料の制限や実験装置の制約等にとらわれることはありません。自由な発想で多くの物質の様々な現象をそのエッセンスにおいて扱うことができる点であり、自由こそ研究の原点ですね。

純粋科学的・数学的に、“シュレーディンガー方程式を解く”、というテーマは、不可能を可能にする面白さがあります。私たち研究会員は、親しく楽しくディスカッションをしながら研究を進めています。

また、ふたつのシンポジウムの開催も大切にしています。

ひとつは国内で、例年4月末~5月に京都駅近くのキャンパスプラザ京都や京都テルサで“革新的量子化学”と題するシンポジウムを開催しています。量子化学分野に限らず、色々な分野の著名な先生方や企業の方をお招きしてご講演いただき、皆様に興味を持っていただけるシンポジウムになるよう企画しています。休憩時間や懇親会では、講師の先生だけでなく、参加者同士が交流を持てるよう計画しています。


もうひとつは、隔年で「JCS理論化学シンポジウム」も開催しています。このシンポジウムは、JCS(日本、チェコ、スロバキア)3国の理論化学者の暖かい友情のもとに企画され、“Friendship is our principle, science will follow with us.”という理念のもと、高レベルの学術的交流と研究者同士の国際的フレンドシップを育むことを最も重視しています。これまで、プラハ、ブラティスラバ、京都、奈良、北海道(コロナのため延期中)で開催しました。

Q. 研究活動を進めていく中での悩みは何かありますか?

研究がすぐに収益に繋がらないことです。私たちの研究は、基礎的・革新的なテーマでありながら、科学・工学・生物学の全てに関わっています。研究が成功したときのインパクトと利益は大きく、いま私たちが研究している分野は私たちが創ったものであり、世界のなかでも大きくリードしています。また、世界でも私たちにしかできない研究テーマとの自負もあります。今までは、⽂科省の科学研究助成⾦などにより、研究開発を⾏ってきました。


しかし、最近はこれだけでは⼗分な研究が⾏えないのも事実です。活動を維持していくためには財源を確保することも重要な課題となっています。研究をライフワークとする後進のために財源を確保していくこともまた、私の役割と考えています。

Q. “財源”といえば、欧米は日本と比べて寄付文化が進んでいるといわれていますが、何か感じられていることはありますか?

NPO先進国のアメリカでは、NPOのスタッフは高い専門性を持つ職業であるという認識が広く定着しています。実際、多額の予算を持つ有名なNPO団体も多数あり、ハーバード大学、メトロポリタン美術館、アメリカ癌協会などもその一例で、寄付で成り立っています。アメリカ以外の国でも、イギリスやオランダなど、NPO団体が大きな事業活動を行っている国は多いですね。


日本でも、人類の英知を開発する研究を、国ではなく、一般の人々の心が支える、そのような寄付文化が進展していくことを願っています。

Q. 機関誌「量子の世界」を発刊されていますが、どのような想いで創刊されたのでしょうか?

研究所の活動と研究協会の交流、さらには市民や社会の皆様への発信や交流などを目指して、2015年に創刊しました。会員への送付だけではなく、京都市役所、京都市市民活動センターにも配架しています。今後は伏見いきいき市民活動センターにも配架します。


内容は、研究所の活動はもちろん、「量子の世界」に関する色々な話題を載せています。量子の世界を探索する私達の活動もまた、量子の世界です。会員や市民のコミュニケーションの場として活用されることを念じています。

Q. 新型コロナ感染拡大により、研究活動にはどのような影響が生じましたか?

緊急事態宣言発令中は、自宅待機でオンラインでの議論を行っていました。また、毎年開催しているシンポジウムも延期となりました。

しかし、研究者にとっての自宅待機というものは、研究に没頭できる、という側面もあります。たとえば、古典力学で有名なニュートンの法則は、ペストが流行した際、ケンブリッジ大学で研究していたニュートンが田舎に疎開した2年間研究に没頭し発見されたものです。

もしかしたら、近い将来大発見があるかもしれないですよ。

Q. 2016年に、京都市より“活動・財務等が優秀な法人のみを厳格な審査のうえで選定する”という認定NPO法人に認定されていますが、それを受けてどのような想いをお持ちですか?また、読者のみなさまにメッセージがありましたらお願いします。

私たちの活動と努力が認められ、とても嬉しく思っています。今後は、私たちの科学研究を広く社会にも貢献できるものにする活動も地道におこなっていきたいと考えています。

また、認定 NPO 法⼈を維持し、⼀般のみなさんから認められる新たな形の研究組織を確⽴することは⽂化・学術の在り⽅の発展にも繋がると考えています。

既存の⼤学や研究所にはない真に⾃由な研究の在り⽅、本来この⾃由こそが独創性のある研究を育ててきた原点であるとの想いで、研究を展開していきたいと思います。

とりわけ、化学や生物を支配しているシュレーディンガー方程式を、実際の問題に対して解けるようにすることは、化学的にも実用的にもとても大事なことと思います。この研究ができるのは世界広しと言えど私達しかないので、これに注力していきたいと考えています。


そこで、私たちの科学での大きな夢とそれを実現する研究活動に意義があるとご賛同していただける方に、ご寄付をお願いしています。


認定NPO法人を維持するための条件のひとつに、1年間に100名以上の方からのご寄付があること、という決まりがあります。少額(3,000円以上)でも多くの方から、毎年ご寄付をいただくことは大変ありがたいことだと思っています。私たちが社会からサポートされているひとつの証とされるからです。


これまでのほぼ4年で延べ250名ほどの方からご寄付をいただいており、目標の400名には達していませんが、この方々に心より感謝申し上げます。ご寄付いだきましたおこころざしは、上の研究所の夢の実現のための活動を通じて、科学技術の発展と人類の幸福に寄与すべく使っています。


なお、ご寄付をいただいた皆様には、研究所機関誌「量子の世界」の配布のほか、研究協会の活動の成果や成果論文の別刷り送付等のリクエストにも随時お答えいたします。また、私たちの研究成果の説明や講演のお申し出にも、出来る限り応じてまいります。


認定NPO法人へ寄付をすると、寄付者は、所得税、相続税、法人税から税の控除を受けることができます。京都市在住の方は、住民税からも税の控除が受けられます。(研究所機関誌「量子の世界」に詳しく説明しています。)


これらの経済的支援は、政府が認定NPO法人に限って認めているもので、我が国の寄付文化が欧米並みに高まることを願ってのことです。行政府による認定NPO法人の認可が厳し

い事の背景には、このようなことがあります。


皆さまの、温かいサポートを、お願い致します。

量子化学研究協会研究所

ホームページ:http://www.qcri.or.jp/

機関誌「量子の世界」:ホームページですべてご覧になれます。

シュレーディンガー方程式の一般解法 ~ 発見から実用まで ~:

http://www.qcri.or.jp/activity.pdf

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~担当スタッフからひとこと~

当センター初の科学者インタビューということで数週間前から緊張しておりましたが、「私は米澤貞次郎先生の弟子で、福井謙一先生(日本人初のノーベル化学賞受賞者)の孫弟子にあたります。孫だから怒られるっていうこともなくてね。おじいさんは孫に優しいっていうでしょ、私には優しい先生だったのですよ。」と目を細めて語られるので、余計な力みが取れてお話を伺うことができました。中辻さんは、日本国内の研究者間ではもちろん、日本・チェコ・スロバキアの3国の量子化学の研究者間でも定期的にシンポジウムを開催されるなど、研究者同士の繋がりをつくり深めながらの研究を大事になさっていることが感じられました。研究者のみなさんがたゆまぬ努力をされている「パラダイムシフトを起こすような研究」に、誰でもが寄付という形で関わること、支援することができる、ということもまたロマンかもしれない、と感じました。

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