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【UTTOCOな人】田川 広一さん Koichi Tagawa_vol.22 2017


地下鉄竹田駅の近くにある、「中村ローソク」。和ろうそくを販売し、絵付け体験のできるお店と実際にろうそくを作っておられるお店、2つの店舗があります。今回は、中村ローソクのろうそく職人である田川さんにインタビューしてきました。

植物から生まれたろうそく

Q:”和ろうそく”について教えていただけますか。

 ろうそくの芯は藺草(いぐさ)と言われ、畳藺草(いぐさ)と同じもので、農家さんが作っています。藺草(いぐさ)から中の髄を抜き出し、それを和紙に巻きつけ、ろうそくの芯となる、燈芯(とうしん)にします。ロウは、櫨(はぜ)の実を取り、絞る作業があります。それらが集まり、京都で僕たちが「ろうそく」にします。

 和ろうそくがお寺で今も使われている理由は、年末に煤(すす)払いという行事があり、和ろうそくは植物油でつくっているため、油煙(ゆえん)が少なく簡単に煤(すす)をはらうことができます。また、和ろうそくは融点が低いため、汚れがついてしまった時に熱めのお湯で蝋を拭き取ることができます。

(写真の他にも「絵ろうそく」といって、絵が描かれているものもあります。)

Q:ろうそくは馴染みがありますが、’’和ろうそく’’はあまり聞き馴染みがないように思います。私たちが日頃、和ろうそくに触れる機会はあるのでしょうか。

 「和ろうそく」は今でもお寺で使われています。みなさん、テレビを観ていて、とても古いお寺の本堂が映り、ご住職が話をしている後ろに「洋ローソク」が灯してあっても気づかないと思います。それは、日本人の文化から「和ろうそく」が消えているということです。でも、昔はそうではありませんでした。

 洋ローソクは、石油系や動物系のロウが入るため油煙も発生し、煤も油っぽいです。汚れを落とすために洗剤でこするため、お仏壇やお寺に金箔が貼られていたり、漆が塗られていたりすると取れてしまいます。そのため、洋ローソクの使用を続けると、何十年後かにそこは修復しなければならなくなります。文化財保護とよく言われますが、そこで使うろうそくやお線香、お香を自然なものにすることも大事だと思います。

 しかし、広く知られていないと、そこまで細かいところに目がいかないですよね。それは僕たちろうそく屋の責任です。僕たちがもっと伝えることが大事だとったと思います。昔は、それをしなくてもまだろうそくが売れた時代でした。しかし、今はろうそくが使われなくなり、和ローソクの良さを伝えていないため、安いものや使い勝手のいいものが選ばれています。

伝統を受け継ぎ、残していく

Q:職人というご自身のお仕事をどのように感じておられますか。

 自分が抜けるとお寺の本山の大切な儀式ができないというように、大事な役割を担っているというのは、やりがいがあります。自分がいなくなると新しい職人がすぐに育つというものでもありません。伝統を受け継いでいるというのは、大変な部分がやりがいになるのかなと思います。

(左がはぜの実。右が実を絞ったもの。ここから和ろうそくがつくられます)

Q:伝統や文化は受け継がれることが一番ですが、消えてしまうことも珍しくないと思います。なくなるかもしれないという危機感は、感じておられるのでしょうか。

 僕は、伝統や文化を”復活”させようと活動するよりも、存続の危機にあるものを”残していく”ほうが大事だと思います。一旦なくなると、僕たち職人でさえ、途絶えてしまった技術を復活させるのは難しいです。

 まだ、京都はお寺が多いので、僕たちろうそく職人は仕事ができています。お寺が洋ローソクを使うことが当たり前になれば、僕たちの仕事もなくなってしまいます。僕たちがいなくなると芯をつくる人、ロウをつくる人すべての人がいなくなってしまいます。

Q:和ろうそくの地産地消を目指す京都市と民間業者によるプロジェクト「京都悠久の灯プロジェクト」も行っておられますよね。職人という枠を超えて動いておられますね。

 僕はろうそく職人で、ろうそくをつくることが仕事なので、毎日、農家さんのように材料となる木を見に行くことや草を刈ることはできません。やはり、そこは専門の人にやってもらわないといけません。ただできあがった材料を僕たちがろうそくにして、販売しないとろうそくづくりに関わっている職人さんや農家さんたちの仕事が台無しになってしまいます。

 プロジェクトは、立ち上げるのは簡単ですが、最終的に上手く回るか回らないかというのは、出口がしっかりしていないといけません。僕たちがろうそくやハンドクリームという目に見えるものにしないと「これをつくってどうなるのか」と農家さんは思いますよね。出口がわかっているとやりがいもあるでしょうし、いろんなことができます。

 そのために僕たちは、和ろうそくを売り続けないといけません。つくり続けていても溜まっていくばかりなので、売り続けて、使い続けてもらわないといけません。そのためには、伝えることをしないといけません。僕たちは、和ろうそくのいいところを知っていますが、買う人はほとんど知っておられません。珍しいという理由で買っていく方もまだまだいらっしゃいます。和ろうそくは「こんなにいいものなのか」、「こんな風に使うのか」と知って使ってもらえれば、使う人も他の人が知らないことを知っているのだからちょっと自慢ですよね。そういう風にして広げていきたいと思っています。

知ってもらう、使ってもらう

Q:ハンドクリームや地産地消を目指すプロジェクトなどさまざまな形で和ろうそくを知ってもらうための発信をされていますよね。

 僕たちみたいな知名度がないものが世の中に知ってもらおうと思うと、「それはなんですか?」という疑問符を相手に与えることが大事だと思っています。知っている人は、こちらが説明しなくてもほんとによく知っておられます。知らない人にどのようにして知ってもらうか…。

 だから、今、夏場のキャンドルナイトなどの野外イベントで小さな和ろうそくを使ってもらっています。洋ローソクは風吹いたらすぐ消えるのですが、和ろうそくは消えにくいです。そのような場で使ってもらい、なぜ今回和ろうそくを使っているのかということを知ってもらいたい。

Q:今後、田川さんはどのようなことをしていきたいと考えておられますか。

 今は、販売するということに力を入れていますが、僕はあくまで職人にこだわりたいです。材料となるハゼを使い、いろいろなものを売らないとハゼの安定供給もできません。僕たちは、原材料がなくなるとろうそくを作ることができません。

 また、若い人が和ろうそくと洋ローソクの違いがわかるようにしたいです。洋ローソクはだめと言っているのではなく、洋ろうそくは洋ろうそくの良さがあります。ただ、洋ローソクを和ろうそくと言ったり、和ろうそくを洋ローソクと言ったりすることはしてほしくありません。違いがわかり、使い分けできるようになってほしいです。

 和ろうそくが使われる、使われないというのは時代だと思うので、今の若い方に避けられるようであれば、消えていくのかもしれません。知らないということで消えていくのは悲しいです。「和ろうそくは煙がとても出る」というような誤解もあり。和ろうそくの良さが伝わらずに消えていくことはさみしさがあります。できることをしっかりやりたいと思っています。

中村ローソク:http://www.kyorousoku.jp

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