「読書の秋」ということで、「ビブリオバトルの益井さん」に会いに行ったら、「まちづくりがおもしろくなってきた益井さん」だったという話
秋といえば、読書。秋も終わりにさしかかり、少し出遅れていますが、読書の秋ということで、伏見にて「知的書評合戦ビブリオバトル」を主催されている益井さんに話を伺いました。
文系男子にスポットがあたる場であり、自己表現の場
ビブリオバトルとは、5分という短い発表時間の中で、おすすめの本をプレゼンする「バトラー」さんによるゲーム。質問タイムやディスカッションを経て、プレゼンの観覧者たちは、一番読みたくなった本に投票し、その日最も読みたいと思われた"チャンプ本”を決めるというものです。
平成26年11月23日、全国大学ビブリオバトル2014~京都決戦~の関西Cブロック地区決戦を兼ね、第11回ビブリオバトルin伏見が開催されました。
ビブリオバトルは全国的な広がりを見せており、全国各地でたくさんのビブリオバトルが繰り広げられています。なんとこのビブリオバトルは京都大学で考案されたという事で、この日は関西Cブロックの4つの予選会を勝ち抜いたバトラーさんたちが、ビブリオバトル発祥の本場で開催される『京都決戦』出場の座をかけて火花を散らしました。
1.『夜のピクニック』(恩田 陸)
2.『政治の世界』(丸山 眞夫)
3.『長い長い殺人』(宮部 みゆき)
4.『復活の日』(小松 左京)
という4つの本が紹介され、この地区決戦では『政治の世界』を発表された、同志社大学の真本大生さんがチャンプを獲得されました。
ビブリオバトルとの出会い
Q、文系男子の益井さんはビブリオバトルとはどうやって出会ったんですか?
文系男子ってめっちゃ言われますけど、実は僕大学は理系なんです(笑) しかも大学時代は馬術部でした(笑) 文系男子とは正反対で、元々本はそんなに読まなかったんです。でも大学生活を送る中で時間ができ、退屈さを隠そうと、たくさんの本を読み始めました。
そんな時に大学の図書館で開催されていた、『ビブリオバトル』に出会ったんです。その時にピンときて、「これはおもしろそうだな」と思ったんです。
ビブリオバトルの様子
最初は発表する勇気がなくて観覧に行ったんですが、「これはおもしろそうだな」という思いがさらに膨らみ、同時に「これは僕もできるんじゃないか?勝てるんじゃないか?」と思ったんです。
観覧した際に文系の観覧者が多いように見えたことや、プレゼンを見ている中で、発表する際にどの本を選ぶか、というところがカギだなと感じたので、初めてのビブリオバトルではあえて、理系の本で勝負しました。そうしたらチャンプ本に選ばれたんです!やったね!
Q、みんな好きな本を紹介する中で、勝負にいったんですね!(笑)そして参加者から主催する側になっていったんですか?
そうなんです。チャンプ本になれた大会は更に上の大会へ進むための『予選会』という位置づけだったんですが、ちょっとトラブルがあって、上の大会へ進めなくなったんです。
その時に、とても残念な気持ちになりましたが、その予選会は誰が開いてもいいと聞いたので、「じゃあ、もう一度今度は自分がビブリオバトルを開こう!」と思ったんです。結果的にはトラブルが解決され、無事に上の大会へ進めたので、自分が開く大会に集中して開催することができました。そうしたら主催や運営がとても楽しかったんです。
ビブリオバトルだから生まれるコミュニケーション
Q、ビブリオバトルの楽しさや可能性ってどんな事があるんでしょう?
本を読む人って、中学や高校のクラスでは派手ではないグループというか、、イケイケじゃないというか、、、。そういうところがあると思うんですよ。というか僕がそうなんですけど(笑) でもビブリオバトルではそんな文系男子達に光があたるんです。あ、もちろん女子にも。
しかも5分というプレゼン時間が大事だと思っていて、実は本の紹介だけだと5分って時間が余りがちなんです。初めてだとペース配分も難しいので。その5分をしっかり使った発表をするとどうしても本の内容以外の部分が出てくるんです。何とかひねり出してくる話題には「その人らしさ」だったり、「その人の原体験」だったり、「ウツウツとした思い」だったりが出てくるんですよ。
そのエピソードが「この人はこういう人ですよ」っていうのがすごく伝わってくるんです。『みんなのその鬱々とした気持ち、アウトプットしてみろよー!』っていう感じですね。
Q、本を紹介するということを通じた自己表現なんですね!自己表現という観点からみたときに、益井さんから見て『このプレゼンは良かったなぁ』というものはありましたか?
昨年の全国大会で特別賞をとられた方なんですが、とある小説を紹介されました。主人公はある日ひき逃げ事故を目撃するんです。その事故に遭った方が幽霊になり、主人公にはその姿が見えるんです。2人でひき逃げ犯を追いかけるストーリーなんですが、バトラーさんのお友達が亡くなった経験を混じえた5分間はとても印象深かったです。
また、映画にもなった「清州会議」を題材に語られたバトラーさんは、お父さんと映画を一緒に見に行った思い出が語られたり、その人それぞれのライフスタイルや情景が浮かんでくるようないいプレゼンでした。
普段友達付き合いをしているような中では中々見えなかったり、言い出せない思いが出てくるんです。本を通じたビブリオバトルならではの表現だと思います。
Q、益井さんはどんな姿勢で本を読んでいるんです?本を読むってどういう事なんでしょう?
本は「著者とのコミュニケーション」だと思います。
>益井さんそれはベタですわ~(笑)
えー?(笑) ではこっちは取材された時に言ってもいつも全然記事にしてもらえないやつなんですけど(笑)、本を読むことって「旅」をすることに似てると思うんですよね。一歩一歩進んでいきながら、あの場所へ行くんだという感じが、自分の力でページをめくり、自分の力で本を読む感じで。
そして旅をしてると、みんなが集まる酒場みたいなところがあって、そこで行きずりの人たちが自分の旅について自慢しあうんです。「こんないいところ見てきたんだよー」と。同じ場所に仮に行っていたとしても、全然違う所に目がいってたりとかすると思うんですよ。
そういう酒場がビブリオバトルなんだと思うんです。「そこ気づいたんだ~」、「俺はこんなとこも見てきたよ」という感じです。
Q、なるほど、益井さんは初めてのビブリオバトルの大会のときもそうですが、「意外な所を見つけてやろう!」とか、「会場が◯◯な人が多そうだからこんな発表をしよう」とか、少し視点を変えたり、あの人の視点はどうなんだろう?という事を意識されてますよね?
まぁ勝ちにいったところはありますが、ビブリオバトルのルールに真摯に向き合うとわりと正当なんです。会場にいる人の票を集めるゲームなので、意外性があってみんなに楽しんでもらいたいという思いがありますね。仮に票が集まらなくても一箇所ウケたらいいかなという気持ちもあります。(笑)
また、ビブリオバトルは勝ったり負けたりということではなく、自分の思いを伝えて読んでみたいと思ってもらうゲームなので、負けても傷つかないというか、みんなでそれぞれの視点を認め合うんです。旅してきた過程をみんなで讃え合うんですね。
「本」から「まち」へ~自己表現のステージの広がり
Q、それぞれの視点を認め合うというのは「まちづくり」にも通じるところがあると思います。益井さんは伏見寺田屋浜ピアーズンピアーズ(以下ぴあぴあ)のスタッフという顔も持っていますが、ビブリオバトルが活きてるなあと感じることはありますか?
まず「本を読む」っていうのは我慢してじっと著者の意見を聞く行為なので、実際の場でも人の話をじっと聞けるようになったと思います。
ぴあぴあでは、「伏見を歩いて楽しいまちにする」という目標で、いろいろな事をしています。先日は龍馬にちなんだこと、という事で、殺陣を習ってミニムービーをつくるイベントなんかも行いました。
自己表現が「本」ということを通じて行うことから、「まち」を通じて行うように変わったんですね。
伏見は歴史が深く、物語がたくさんあるまちです。かつては秀吉が治め、港町として栄えて衰退するも酒のまちとして復活したり…。まちにはまちの文脈があると思います。その多様性を伝えたいですね。でもまだまだ駆け出しなので、今は「伏見を読んでいる」段階でしょうか。
ぴあぴあでの仕事はすごくビブリオバトルでの経験がつながっていると感じますね。
ミニムービーの撮影風景
Q、ビブリオバトルとまちづくり活動は益井さんの中で一体となっているんですね!益井さんの今後のどんな事をしていきたい、などあったら教えて頂けますか?
物語は読む人が作っているところもあると思うんです。その人の主観が大事というか。なので今度はまちの物語をつくっていきたいですね。「こういう物語の途中にみんなはいるんですよ!」、「だからみんなで、まちをもりあげるって大事ですよね!」という、こういうストーリーがあるからまちにみんなが関わってくれると思うんです。
なので、若者や地域に住んでいる人と、まちの文脈やストーリーをつなげていけるといいなぁと思っています。
Q、最後にこれから「まち」にとびだすみなさんにヒトコト!
そのまちに良いことをしようと追いかけ続ける事も大事ですが、自分が一番楽しめる事がまちにつながっていくこともあると思います。自分が楽しいという感覚を大事に磨いてほしいですね。
(取材日:平成26年11月28日)
【INFORMATION】
今回取材させていただいた益井さん。実は今後UTTOCOで不定期連載をもってくださいます。ビブリオバトルのチャンプ本を中心に、「ビブリオバトルふしみ」のオススメ本のレビューのコーナーです。